ウリとプリン

最初は小さなクリアケースだった。
その小さい箱が彼女たちの世界の全てだった。

やがてそれは手狭になり、私は彼女たちのために次なる物件を探すことにした。

ドンキホーテでみつけたそれは明らかに飼い主目線のものだったが、杞憂と言い聞かせて購入した。
しかし、実際入居してもらうと明らかにハム目線ではないそれに住人からクレームがつき、詫びを入れることになった。
判っていながらやってしまう。
家に持って帰ると何かが変わってるんじゃないか?
そう思いながら重ねてきた失敗買い物墓場。
はむはむパークと銘打たれたそれが、新たに墓場に加わることになった。

次なる物件は東急デパートの屋上で購入した。
二階建ての質実剛健ハウス。
一階は敷き藁リビング、二階は寝室とダイニング。
まあ、二階建てというよりはロフトかな。

広くなった行動範囲を彼女たちは存分に堪能していた。
それでも彼女たちは世界を求めた。
もっと自由を!もっと世界を!
鉄格子越しにカリカカリカリと歯をむき出しにして訴える。
是非もなし。
私は要求を受け入れ、居住地を四畳半の一室に移転させた。
二階建てハウスの屋上からパイプを通って室外に出られるようにもした。
いまや彼女たちは、この四畳半という広大な畳の野をその手中に収むるにまで至ったのだ。
破竹の勢いを見せる彼女たちに織田信長の姿がダブる。

しかし、ある時を境に彼女たちはイガミ合いをはじめるようになった。
イガミ合いと言うよりは、一方的なイジメだ。
同居が難しいと判断した私は、3階建ての物件を新たに購入し、別居してもらうことにした。
四畳半の一室に二つのアパート。
しかし、彼女たちの冒険好きはいささかも変わらない。
入り口を時間差で開放してやると、縦横無尽に駆け回った。

イジメられていた住人は、間もなくしてこの世を去った。
誰もいない四畳半の世界に彼女は君臨する。
ウッカリ襖を閉め忘れた日には、70m2が彼女のものとなる。
どどどどどどどど!
広大なスペースを猛進する。
それほど蹂躙しておきながら、家に帰って滑車を回す。
尽きることのないエネルギー。
ゴクゴク水を飲み、ムシャムシャ餌を食べ、スヤスヤ眠る。
魔人ブウか。

三鷹のマンションは彼女と共にあった。

やがて我々は調布に引っ越す。
ガランとした三鷹のマンションには、彼女が残した数々の痕跡があった。
柱の傷、畳の染み、ほつれ。
ペット不可の契約違反を大家さんにどう説明したものか、と無い智恵を絞っていたが、責められたのは私の吸ったタバコの汚れだった。

調布に越す前から、彼女には老いが見え隠れしていた。
私に出来ることはバリアフリーにすることぐらいだった。
それでも彼女は、走り、食べ、眠る。

間もなくして、彼女はその一生を終える。
やはり彼女は三鷹と共にあった。
嫁不幸な私に代わって随分かみさんを癒してもくれた。
ありがとう。
向こうでは相方をイジメないでやってほしい。

今はただ、主のいない三階建てがむなしくそびえ立つ。