S#28 モデルルーム

soichi_ueno2006-12-23

【前回までの粗筋】
出稽古に励む生徒A、B、C。 そんな彼らの目下の楽しみは池袋での出稽古だ。 今日も今日とて道場の選択に余念がない三人。 そんな三人を落雷が叱咤する。 一方その頃・・・

ピカッ! ドーーン!

ゴロゴロゴロ・・・

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店員 「・・・いや〜、すごい音でしたね」
亭主 「すごい音したね」
嫁   「傘持ってきといて正解だったわ」
店員 「でも、ご安心ください。 当社のマンションであれば雷だろうが地震だろうが、万全のセキュリティでお客様をお守りします」
亭主 「うん、その点については安心してます」
嫁   「そうね」
店員 「それでは・・・ えっと、今日はご主人様の確定申告書を持ってきていただいたと思うんですが」
亭主 「ああ、はい。 これが過去3年分の申告書ですね」
店員 「拝見します」
亭主 「あそこの和室は、やっぱりお客さん用かな?」
嫁   「うん。 手前の洋室を寝室にして」
店員 「あの、ご主人様」
亭主 「はい」
店員 「この、映画編集というのは、どういったご職業でしょうか?」
亭主 「いや、文字通り映画の編集をやってます」
店員 「編集といいますと?」
亭主 「まあ、映像素材を切った貼ったするんですけどね」
店員 「ちなみにどんな作品を?」
亭主 「有名なのは『ピンポン』とか」
店員 「ええ! あの窪塚くんの?!」
亭主 「え? あ、まぁ」
店員 「この星のー!ってやつですよね? いっとーしょーにー!って」
亭主 「そうですね」
店員 「いや〜、嬉しいな。 そんな人と契約できるなんて。 あとで自慢してもいいですか?」
亭主 「いや、ははは」
店員 「他にはどんな作品を?」
亭主 「あとはアイデン・・・」
店員 「ええ!? まさかあの?」
亭主 「え? 洋画じゃないですよ?」
店員 「もちろんです! ボーンとか言わないヤツです! アイデン、あんど・・・」
亭主 「あんど・・・」
店員 「ティティ! いやー、やはり! 峯田くんがまたイイんですよね〜」
亭主 「あ、そうですか。 嬉しいな」
店員 「やらなきゃならないことを、やるだけさ、ってね!」
亭主 「はは、どうも」
店員 「あれをやられたんですか、いや〜すごい。 サインもらっちゃおうかな」
亭主 「いや、そんなサインなんて。 はは。 練習しとけばよかったかな」
店員 「どこに所属してらっしゃるんですか?」
亭主 「フリーですよ。 この業界はフリーが多いですからね」
店員 「まったくの?」
亭主 「ええ、まったくのフリー。 自営ととってもらっても結構ですが」
店員 「まったくの・・・」
亭主 「ええ、まったくの」
店員 「・・・・・なるほど、それでここの年収の部分なんですが」
亭主 「はい、500万円」
店員 「いえ、この場合、年収というのは純収入から諸経費をひいた額になるので」
亭主 「はぁ」
店員 「この場合、諸経費が400万とあります」
亭主 「ええ」
店員 「ですので、ご主人様の年収は100万ということに」
亭主 「100万!?」
店員 「はい。 これではちょっと銀行の申請が通りにくいかと」
亭主 「そういうもんなんですか?」
店員 「そういうもんなんです」
亭主 「いや、でも家賃だって一度も滞納したことないし、借金だって一度も・・・」
店員 「奥様!」
嫁   「はい?」
店員 「奥様は、確か会社勤めをされてたとか」
嫁   「はい」
亭主 「いや、でもこいつは手取りだって少ないし・・・」
店員 「奥様、失礼ですが年収はいかほどでしょうか?」
嫁   「たしか、300万あるかないか、ぐらいだと思いますけど」
亭主 「ほらね? だったら僕の純収入を・・・」
店員 「今現在、ローンとかございますか?」
亭主 「いや、ないけどこいつよりも僕のほうを・・・」
店員 「ご主人」
亭主 「はい」
店員 「ちょっと黙りませんか」
亭主 「へ?」
店員 「いま、奥様と話してますので」
亭主 「・・・・・」
店員 「奥様、ローンの方は?」
嫁   「ええ、ローンは何も無いはずです」
店員 「結構でございます。 それでは源泉徴収表をですね」
亭主 「あの、『ピンポン』・・・」
店員 「あと身分証明書。 こちらのほうを早急に用意していただきまして」
亭主 「いや、サインとか・・・」
店員 「ご主人」
亭主 「・・・はい」
店員 「ご主人!」
亭主 「はいっ!」
店員 「外でタバコでも吸ってらっしゃいよ」
亭主 「・・・・」
店員 「いや〜、奥様のような堅実な方と契約できて私、本当に幸せ物です」
嫁   「いや、そんな」

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S#28A 喫煙所
亭主 「ふ〜〜〜       けほっ」